松橋、語る。 

松橋が言った。
「おい、青木。お前はダントツで豚の爪についた汚れのような顔をしている。
 それはとても気持ち悪い顔だ。
 俺はお前が醜くてたまらない。
 まずお前のそのショッキングな存在を何かで消してやりたいよ。
 お前の今日の夕飯はインスタントラーメンだった。
 窓から見ていたから分かるぞ、青木、お前。
 お前はしきりに『チキンタツタ~ズ♪』と呟きながら
 熱湯の中の乾燥麺をさいばしでほぐしていた。
 その姿は悲しくて悔しくて現実ではなかった。
 仮にお前が現実を生きているとしても、それは何度も何度も消えかけている。
 いつ完全に無くなってもおかしくない世界の中で
 お前は何も知らずに笑っている。
 可哀相を通り越して、もはや愛しいぞ、青木、お前のこと。
 ところで、聞いてくれ。俺に好きな人ができたぞ。
 間宮さんというんだ、とても可愛い子だ。
 大学で一緒なんだけど、同郷の出身で高校も隣の高校だった。
 家も近くて俺も間宮さんも一人暮らしをしている。
 歩いて5~6分かな。
 本当に近いだろう。
 運よく信号で止まらずに走っていければ3分で行くことだってできる。
 俺はこの前の晩、夜食を買いに近所のローソンに行ったんだ。
 赤いきつねとエロ本を買って帰ろうとしたとき、前に
 間宮さんの後ろ姿を発見した。
 俺は走っていき、まず間宮さんの腰のあたりを思い切り蹴りつけた。
 すごい体勢で前に崩れたね、間宮さんは。可愛かった。
 そして、何が起きたか分からなそうにこっちを振り向く間宮さんの目
 が潤んでいた。俺はさらにその顔を思い切りなぐりつけた。
 間宮さんが苦しそうに『警察呼ぶよ』と言った。
 俺はその瞬間、間宮さんを抱きしめた。
 『君のことが本当に好きなんだ』と言った。
 間宮さんは何も言わずにただ咳込んでいた。
 その瞬間、風がブワーッと吹いたんだ。
 近くの木々がザワザワとはしゃいだ。
 なあ、青木。
 俺、今度、間宮さんと結婚することになったんだけど
 お前も式に来てくれるかな。
 大学結婚になっちゃったけどさ、今は幸せしか見えてないんだ。
 俺は風が吹くたびに何かひとつ大切なことを思い出す病気になってしまった。
 一生、治らない病気だ。
 大切なものが多すぎて心がパンクしてしまいそうさ、青木。
 聞いてるか、青木。
 俺は間宮さんを幸せにするよ、マジで。
 朝、ニュースを見ながらパン喰ってるときに何かすげぇそう思ったよ。
 でも、当たり前のことなのかもしれないな、そんなの。
 俺も最初、大学で間宮さんを見たとき、この子と結婚するなんて
 思わなかったぜ?青木。
 最初は本当にただ可愛いと思っただけだった。
 でも、出身地が一緒とかイニシャルが一緒とかそういう情報を
 知るうちに何かマジで好きになってきちゃってさ。
 松橋瞬と間宮詩織、どっちもM・Sだろ。ほら。
 嬉しかったんだよ、それだけでも。
 俺は幼いころに父親が死んでるんだ。
 DNAの異常で3メートルまで成長してしまったヤギに踏みつぶされて死んだんだ。
 父親は死に際に、ヤギに踏まれながら
 『100円クーポンと50円クーポンがあるけど、100円クーポンの方が有効期限短いよ』
 と言って死んでいった。
 それははかない最期だった。
 俺の父親がヤギに踏み殺されるとは思わなかった。
 お前も少しは常識があるだろうから、それがどれくらい異常なことかくらいは分かるよな。
 だからさ、俺は愛に飢えてたんだ。
 それを埋めてくれたのは間宮さんだった。
 間宮さん、可愛いから好き!
 おい、青木!それでいいと思わないか!?
 間宮さんのこといーっぱい好き!!
 いーっぱい!いーっぱい!いーっぱい好きーー!!」


僕はその話をずっと黙って聞きながら
今日の夕飯のインスタントラーメンは煮込みすぎだったな
とか考えていた。
スポンサーサイト
[ 2011/04/16 00:00 ] 日記 | トラックバック(-) | コメント(-)