バイナラ バイナラ バイナラ 


Sは僕の高校の同級生だ。
成績は中の中。
ルックスは微妙。
クラスでも地味な人達とつるんでいた。


Sは高校の卒業式の一日前にクラスでもトップクラスに可愛かった女の子に
(一度も喋ったことが無いし、スクールカーストもえらい違いだというのに)
放課後の校門前で話しかけた。


「胸をもませてけろ」

と。
Sの目はうつろで
姿勢は猫背だった。
その日は雨が降っていたににSは傘もささずに校門前にずっと立っていた。
その姿、恐怖。
完全なる恐怖であった。


しかし、女の子は動じずにまっすぐな目でSに言った。

「なんで?」

「なんでだかは知らん。揉ませてけろや。」

「S君は私の胸を触ってどうしたいの?
 それで終わり?」

「終わりってなんじゃが。
 何が終わるんじゃが。
 何も終わることは無いが。
 終わりとか始まりを考え出したらキリが無ぇがの。
 頭がおかしくなってしまうがの。
 俺はとにかくお前の胸が揉みてぇじゃ。」

「私とエッチはしたくないの?胸だけ?」

「エッチなんてしたら俺がとろけてしまいそうで
 怖くてできん。胸だけでえーて。胸だけでえーて。」

「S君て凄い人だと思ってたけど意外としょうもな。」

「凄い人?俺が凄い人?
 なぜそんなことを思うが?
 俺は教室でも目立たずに端っぽちでずーとずーと
 虫の絵を描いてるだけじゃろうが?
 成績もよくらん。
 運動もよくらん。
 顔もよくらんやて。
 そんでもって俺の何が凄いと思うたんじゃ?」

「タバコを吸っているところ」


女の子はSがよく高校から少し離れた公園で一人
鳩やセミなんかを眺めながらタバコを吸ってるところを目撃していた。
女の子は誠実で健全な家庭で育ったので
タバコ=不良・悪の象徴だった。
それなのに学校では目立たず大人しくしていたSが
タバコを吸っているのは
女の子にとってはとても不思議で
なんとも裏の顔チックに思えた。
そして漠然と
「この人、何か凄いのかも…」
とだけ思っていたのだ。
なんともフワーッとした思考の流れである。




「タバコ…。兄が吸うとるのを見て俺も吸うようになったがの…。
 それの何が凄いのじゃ」

「不良じゃないのにタバコを吸っているから」

「なんじゃそりゃ」

「タバコ吸う勇気あるなら私とエッチくらいすればいいのに」

「勇気の問題じゃないが。俺は溶けてしまうが。
 お前とヤったらもう完全に溶けてしまうが。
 そしていづれは雨に流されマンホールから下水道に流れていくが。」

「……分かった。胸揉んでいいよ」

「本当け…? ありがとうの…。」

Sは女の子の胸に手を伸ばした。
そして少し小ぶりなそれを撫でるように触り始めた。

「俺、本当に揉ませてくれるとは思わなかった…」

「私はどうしようもない奴だからね。
 私の胸に価値なんかないからね。
 自由にさわりなよ。」

「ありがたや…。」


雨が強まってきた。
コンクリートと水玉が何千万回と衝突する音は
テレビの砂嵐のようだ。

明日は卒業式。

高校3年間の最期だ。

女の子は目をつぶってSの手を感じた。
性を感じた。
少し出た声は砂嵐にかき消された。
あたりには誰もいない。
みんなどこにいってしまったのだろうか。

Sは女の子の耳に口を近づけてうつろ声で言った。
「俺は今日、家に帰ったら首吊って死のうと思ってたんじゃ」

「えっ…」

「死ぬんじゃ。
 死んでしまうんじゃ、俺は。この後。
 マジやぜ。かっこいい?」

「何で!!」

女の子は突然、大声をあげて、Sの手を振り払った。
そして持っていた黄色の傘も地面に落とした。
女の子の髪が一気にびしょ濡れになった。

「死ぬなんて言わないでよ!かっこよくないよ!
 明日は卒業式だよ!一緒に出ようよ!
 高校生活の最後のしめくくりだよ!
 最後、卒業証書もらってすっきりして卒業しようよ!
 なんで今死んじゃの!?」

「俺、高校で目立たなかったじゃろ。
 ずっとダサかったろ。
 俺の高校生活ずぅとずぅとダサかったろ。
 最後はかっこよくしたいんじゃ。
 だから死ぬ。」

「ダサくないよ…
 かっこよかったよ、タバコ吸ってるとこと…」


ここで雷が光った。


「虫の絵を描いてるところ!!!!!」


ピカッ
ゴロゴロゴロ~ン
コロガッシャ~~~~~~ん
ガシャゴロゴロゴロオオオ~ン
ビギャッ
ビギャッ
ギラギラギラギラギラギラギラ
ビリビリビリビリ
ビリビリ
ビリリリリリリリr
ビリリリリリr
ギラギラガッシャン
ゴロガッシャン
ビガギギギギギギギギギギ
ゴロゴロゴロゴロゴロ
ギギギギギ
オイカオイカオイカオイカオイカオイカ
オイカオイカオイカオイカオイカオイカ
オイカオイカオイカオイカオイカオイカ
オイカオイカオイカオイカオイカオイカ
ゴゴギギャギョギョギョギョギョギョ
ピカピカピカ
キラリキラリキラリキラリキラリ
ギョンギャンギョンギャン
ゴウンゴウンゴウンゴウン
シャアアアアアアアアアアアア
ピガアアアアアアアアアアアアアア
ビリビリビリビリ
ビリビリ
ビリリリリ
ビリリリリリr
ギラギラガッシャン
ゴロガッシャン
ビガギギギギギギギ
ゴロゴロゴロゴロゴロ
ピカピカピカ
キラリキラリキラリキラリキラリ
ギョンギャンギョンギャン
ゴウンゴウンゴウンゴウン
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


Sは叫んだ
「いや、俺はダサい!!!!!!
 だから死ぬ!!!!
 最後にの…最後にの…
 胸揉めてよかったわ…!!!!
 俺はダサかったけど
 最後には可愛いお前の胸も揉めて
 かっこよく死ねて
 幸せ者じゃ!!!!!!!!!!」

女の子は茫然と立ち尽くしていた。
最後にSは女の子に近づいて
「バイナラ。バイナラ。バイナラ。」
と言って校門を出て
首を吊りに家へと向かった。
スポンサーサイト
[ 2012/08/14 23:39 ] 日記 | トラックバック(-) | コメント(-)